肌の「水分量」は加齢では減少しない!?肌が乾燥する理由
お肌の水分量は、冬は夏に比べて約30%も乾燥するといわれますが、さらに気になるのが「加齢」による変化。
加齢による水分量の変化について、某大手製薬メーカーのHPには、つぎのような記事が掲載されています。
年々肌の水分量は低下の一途をたどる・・・
年齢とともに肌は乾燥しやすくなりますから、なんとなく納得させられそうですが、”年齢とともに肌の水分量が減少する”とのエビデンスは少ないようです。
逆に、高齢になっても肌の角質層の水分量は変わらない、との研究論文は増えています。年齢とともにカサカサになっていく肌を考えると、ちょっと不思議な気もしますが・・・。
年齢とともに、肌の水分量が減るのか減らないのか、エビデンスを紹介して確認していきます。
少し難しい話になりますが、モヤモヤが多少晴れるかもしれません。スキンケアの参考になるはずです。
高齢になっても肌の水分量は減少しない!?<エビデンスから>
年齢とともに肌がカサカサになりやすいことから、肌の水分量は加齢によって減少すると思われるかもしれませんが、実際には、皮膚の一番外側にある角層の水分量は、若い人と変わらないようです。
それどころか、90代では、70代よりも水分量が多いとの研究結果もあります。
まずはじめに、年齢とともに肌の水分量が減少するとの説について、少し古いですが、海外の文献からそのエビデンスを紹介します。
年齢とともに肌の水分量が減少するとのエビデンス
年齢とともに肌の水分量が減少するとの説明のなかで、その根拠として引用されるのが、こちらの文献。Pottsの研究として知られているようです。
Changes with age in the moisture content of human skin(人間の皮膚の水分量の加齢による変化)J Invest Dermatol.1984 Jan;82(1):97-100、R O Potts, E M Buras Jr, D A Chrisman Jr こちら(原文)
この論文では、24歳~63歳までの男性16人のグループを調査しており、つぎのように結論づけています。
〔…〕この結果は、老化した肌が若い男性の肌よりも水分量が少ないことを示唆している
この研究結果について、皮膚の水分量の測定方法についてここでは省略しますが、感覚的には理解できると思います。国内大手メーカーなどのHPでは、この論文から引用した記事を目にします。
年齢とともに肌の水分量は減少しないとするエビデンス
逆に、高齢になっても水分量は変わらないとする説について紹介しましょう。
1.加齢に伴う顔面皮膚の生理的 ・形態的変化 (第2報)
(粧技誌第23巻第1号1989、資生堂基礎科学研究所)こちら
ーイギリス、フランス、アメリカ、日本女性について、顔面皮膚の生理的, 形態的加齢変化を調べ、つぎのような結論を出しています。
角層水分量は、どの人種においても若年層で低く, 30代 ~40代 までは加齢とともに増加した。 これは若年層で肌荒れしている割合が高かったためと考えられた。※抜粋
この研究では、10代~60代の女性を対象にしていますが、興味深いのは、日本人についていえば、10代の女性の角層水分量がもっとも低く、20代~60代までの角層水分量はほとんど変わらないこと。
また、日本女性の角層水分量は、外国人の肌とくらべて、全体的に、角層の水分量がかなり少ないとのデータが示されています。
2.在宅患者の皮膚水分量の検討
(川崎高津診療所紀要 第1巻1号 2020)こちら
ー在宅患者と健常者の皮膚水分量(角層水分量)の測定を行った研究論文で、2020年に発表されたものです。測定対象は、全身9箇所(額、目尻、頬、前腕内側、手背、手掌、腹部、下腿、足背)です。
高齢者の皮膚水分量の検討から皮膚の乾燥が示唆されたが、年齢が増すほど水分量が低下するという傾向は認められなかった。※抜粋
この研究は、皮膚の正常な機能のためには、皮膚水分量の保持が重要であるとの視点からおこなわれたもの。
さらに興味深いのは、高齢者でもみずみずしい肌を維持している患者もみられ、70歳代と90 歳代では、90歳代の方が角層水分量が多かったこと。
体内の水分量は年齢とともに減少することがわかっていますから、角層の水分量の変化がおなじように考えられたとしても不思議ではないのかもしれません。
では、水分量が減らないのになぜ肌がカサカサになるのか。これについては、加齢にともなう水分量以外の要素が関係しているようです。
なぜ加齢によって皮膚は乾燥するの?
肌の一番外側にある角質層について、年齢とともに水分量が減少しないのであれば、なぜ年齢とともに肌がカサカサになって乾燥していくのでしょうか。
そこで考えられるのが、つぎのような加齢による皮膚の変化です。もともとの水分量が変わらなくても、バリア機能の低下などにより、乾燥しやすい状態になってしまうようです。
- ターンオーバーのサイクルの長期化
・年齢とともに肌のターンオーバーのサイクルが長くなると、角質細胞が剥がれにくくなり、角質層は厚くなります。その結果、肌の表面が乾燥しやすくなるようです。 - 皮脂の分泌量の減少
・皮脂には、肌の水分が蒸発するのを防いでバリア機能を高めるはたらきがあります。加齢によって皮脂の分泌量が減ると、肌のバリア機能が低下し、皮膚トラブルが起こりやすくなります。 - NMF(天然保湿因子)やセラミドの減少
・NMF(天然保湿因子)は、角質細胞のなかにある天然の保湿剤。セラミドは、角層細胞どうしのすき間を満たし、細胞どうしや水分をつなぎとめていますが、加齢によってこれらの分泌が低下すると、肌が乾燥しやすくなります。
表皮の角層の水分は、外から供給されるのではなく、体の内側から補われます。
皮脂には水分を逃がさないようにする役割がありますが、年齢とともに皮脂の分泌量が減少することが、肌のバリア機能の低下をまねき、乾燥肌などの皮膚トラブルの原因になるようです。
一般的に、肌のターンオーバーのサイクルは年齢×1.5と言われています。そのため、バリア機能が低下した角層が剥がれずに、いつまでも残ってしまうことも一因になっているようです。
まとめ
皮膚の一番外側にある角層(角質層)には、外部からの刺激や異物の侵入を防いだり、体内の水分が蒸散するのを防ぐバリア機能があります。
肌の角質層の水分量が加齢によって変化しないとのエビデンスがあるとしても、加齢によって厚くなり剥がれにくくなった角質層はバリア機能が低下し、乾燥しやすくなるのが現実です。
スキンケアのポイントは、肌のバリア機能を維持するために、皮脂の分泌量と肌の水分量のバランスを保つことだと考えられます。
近年、スキンケアで注目されている薬用成分にナイアシンアミドがあります。セラミド合成を促進してバリア機能を改善するだけでなく、コラーゲンの生成を促進してシワを改善するはたらきも確認されています。
カサカサになった肌を掻きこわせば症状がさらに悪化しますから、年齢にかかわらず、早めに正しいスキンケアをはじめることをおすすめします。